May 11, 2006

画像の位置情報による本人認証方式の研究開発 - 画像パスワードGATESCENE

「画像の位置情報」と言っているが,つまるところ"Cue-based graphical password"を応用した認証方法の提案である.
なぜ「応用」かと言っていると,この提案では画像の位置だけで認証するのではなく,あくまで既存のID認証方法を補完/強化するために画像を使用しているからである.

◆ バイオメトリクス認証の課題

1. 個体データの更新ができない
2. システム管理者の運用管理負担/システム管理者の守秘義務(完全はない)
3. 判定閾値の決定 (グレーゾーンの存在)
4. 心理的,生理的抵抗感 => 情報流出したらとりかえしがつかない
5. 個体データ毀損(指切断)などの脅威
6. 特殊な認識装置(ハードウェア)が必要

◎ IDパスワード方式の利点
1. 社会的に十分認知/普及したシステムであり,利用者の理解が得やすい
2. 判定はOKかNGのどちらかであり,いわゆる「グレーゾーン」は存在しない

◆ IDパスワード方式の欠点
1. 記憶する必要があるため,記憶しやすい(=推測されやすい)IDやパスワードを使用してしまう
2. なりすましの防御が困難 - ユーザはIDパスワードを更新しない

□ 本人認証技術の必要要件
1. 脅威対抗性 (各種の脅威に対する安全性が確保されていること)
2. 社会的受容性 (国籍,年齢,性別によらず利用できること,システムの利用により他の脅威が発生しないこと)
3. 認識率 (本人が認証した場合は100%認証できること)
4. 利用者利便性 (多くの人が利用でき,かつ短期間で認証できること)
5. 導入,運用コスト

を考えるべきだと述べている.

ということで,これらの欠点を補うために,IDの他に画像の特定位置を秘密情報として組み合わせればよい.というのが提案手法である.つまり銀行ATMならば,4桁数値だったのが,GATESCENEになると,4桁数字と表示される画像の特定点になる.またこの特定点は1つだけでなく複数であってもよく,また入力インタフェースを用意することで,IDだけではなくパスワードでもよいと主張している(トランプの例もある.トランプであることが本質なのかどうかは不明.1から13までの整数ではダメなの? マークも意味があるのだろうか??).

が,論文の図を見ていると,「記憶例」と主張されている例が意図的であり,記憶が簡単な例として紹介されているのだが,これは逆に考えると推測されやすい「ダメ」なパスワードの例に見えなくもない.

この手法は,素人なりにモデル化すると,既存の秘密情報に画像の位置を追加したという見方ができる.画像の位置は,数字や文字種よりもバリエーションが多く,簡単に推測できないから安全になるというのが根拠だろう.しかし,それは普遍的に言えることなのだろうか? これは4桁暗証番号で言われている主張と同じなのではないかと思う.4桁の暗証番号は10,000通りのバリエーションがあるが,実際にユーザが使っている暗証番号は日付であり,0101(1月1日)〜1231(12月31日)までの366通りを調べるだけで,多くのユーザの暗証番号をあてることができると言われている.Cue-based graphical authentication(画像内の特徴点による認証)もこれと同様の問題をはらんでいる可能性は否定できないだろう.画像内の"ありがち"な特徴点/特異点を指定すれば,それを使っている多くのユーザの秘密情報を見つけ出せそうな気がする(根拠なし).

また画像を組み合わせることにより,「暗証番号の記憶の壁を簡単に突破できる」とあるが,これも疑問である.単純に考えると記憶すべき情報が増えているので,記憶負担は増えている.ただ,その覚え方として「帽子からジグザグ」とか「カラスからL字」という例を挙げているが,これだと記憶は楽になるかもしれないものの,その推測も容易になってしまうのではという懸念がある.またそうでないパスワードをつければ,記憶負担は単純に増えてしまうので「記憶の壁を突破できる」とは言いきれないと思う.

なぜ画像の位置を組み合わせたのか? 画像を組み合わせた利点がうまく伝わってこない気がする.また画像を組み合わせることにより,既存のPINやパスワードに制約を生んでしまうような例が提示されているため,「記憶の壁を突破できる」という主張が素直に納得できない.

うまく問題点を指摘できないが,そういった印象を受けた.でも,的確に指摘できないということは,論文の主張はあっていて,有効な手法だということかもしれない.

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author = {鹿島一紀}
title = {画像の位置情報による本人認証方式の研究開発 画像パスワード GATESCENE (ゲートシーン)}
journal = {情報処理学会 コンピュータセキュリティ研究会 研究報告 2000-CSEC-010}
volume = {2000}
number = {68}
pages = {121--127}
publisher = {情報処理学会}
month = {7}
year = {2000}
情報処理学会 電子図書館

Posted by z at May 11, 2006 03:33 AM