June 02, 2007

Paper: Sharing motion information with close family and friends

Sharing Motion Information with Close Family and Friends,
Frank Bentley and Crysta Metcalf,
Human Factors in Computing Systems(CHI2007), pp.1361 - 1370
ACM Digital Library

Motion Presenseアプリケーションの提案.携帯電話の電話帳のようにユーザ名がリストとして表示されているのだが、各ユーザの横にそれぞれの「移動状況」を表示できるようしたというもの.親しい間柄でのプレゼンス情報共有を目指したものである.これを10人のユーザで二週間にわたりユーザ評価を行った.その結果、移動状況から場所や行動の推測などが可能であったことがわかった.またプライバシーの懸念を示す人もいたが、このアプリケーションの利用後にはそれほど気にしなかったという結果を得た.

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以降は論文内容のメモ書き

■ Introduction
- より簡単に、かつよりわずらわしくない方法で人々をつなぎ、状況を知らせたい.
- GSMのCell IDを利用し、移動しているかいないかを判定、その情報を共有する
- ある程度のあいまいさ加減がプライバシー問題を回避可能にする
- 状況は "moving(10)"という形式で、移動しているか否かと、その状態での経過時間が格外等ユーザの隣に示される(単位は分)
- そのユーザ名から直接電話やSMSの送信が可能

- フィールド評価をした
- 評価項目は以下の5つ
1. 親しい間柄では、motion presense情報は移動状況以外の何かを推測するのに使われるか? もし使われるのならば、何の推測に使われるか?
2. 電話やメールをしようとする際に、通信相手の移動状況はなんらかの影響をおよぼすか?
3. 連絡相手の移動状況は、連絡をとろうとする際の連絡手段選択になんらかの影響をおよぼすか?
4. 移動情報の正確さが、アプリケーションの価値にどのように影響するか?
5. 親しい間柄では、どんなプライバシー上の問題が起こりうるか?


■ Related Work


■ Methods
- 二週間にわたる実験を二回実施
- アプリケーションが動作する携帯(Motorola A780)を渡し、通話をSDカードに記録させた
- アプリケーションは、自身の利用状況を記録、毎晩、指定先に電話をしてもらい、motion presenseアプリをどのように使い、かつどのように対応したかを残してもらった
- 実験終了後にインタビューを実施.インタビューはSDカード内の通話内容に応じてカスタマイズ
-- 体験したこと、推測したこと、アプリの利用による反応などを質問


■ Implementation
- SMSによる状態通知を利用したP2Pシステムとして実装
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- Motorola A780, E680iを対象
- 移動状態を検知するdaemon(Motion Presense Daemon)とJ2MEによるユーザインタフェース(Motion Presense App.)から構成
- daemonはC++で実装.Linuxのdaemonとして携帯電話の起動と同時に起動し、バックグラウンドで動作しつづけ、移動状態を検知すると共に、状態通知メッセージの送受を行う
-- 移動状態が変化したら、SMSメッセージをリストアップされているユーザに送付する
-- メッセージを受け取ったdaemonは、それをファイルに書き出す.またすべての状態変化をログに出力する

- Javaアプリはユーザインタフェースを提供.daemonによって記録されたファイルを読み、画面に提示すると共に、各ユーザに対してSMSまたは音声通話をすることができる
- ユーザリストの一行目は自分自身の状態を表示.共有されていることを意識させ、かつアプリが正常に動作していることを示すため
- すべての操作はログに記録される
- 課題: バッテリーのもち.SMSの配送、ユーザリストが大きくなるとSMSの配送が困難に.


■ Findings
- ユーザは、移動状態と対象ユーザに関する知識からいろんな推測をしていた
- 移動状態というあいまいな情報でもユーザにとって有用であるように思われる

□ What was inferred from motion data?
- 移動状況から、居場所や何をしているかを推測.待ち合わせや連絡をとってもよいかの判断に利用

- 連絡をする前に相手の状況を確認し、それに応じて連絡手段を選択したり、連絡を後回しにしたりしていた
- 会おうとする相手の状況を把握するため
- micro-coordinationの支援.状況を把握し、会う場所や時間を決定する
- 相手の状況に応じて、その場でもうしばらく時間をつぶすか、移動し始めるかの判断に利用
- 待ち合わせにてまちぼうけをしないようにするために利用
- スケジュール通りに用事が進んでいるかどうかを確認するのに利用 (Security用途としても使える)
-- しかし、相手方の監視にもつながりかねない.データがあいまいであっても問題になることがある.
- 助けを求めるのに利用.「会社から帰り始めているな、途中で牛乳買ってきてもらおう」「子供を迎えに行っているはずなのに、移動していない! 電話しよう!」


□ How did motion data after feelings of connectedness?
-「つながっている」という感覚の提供、社会的意識の提供

- カップルが忙しくて実際に会えない時に、このアプリケーションを見ていた
-- 仮想的につながっている感覚を提供
- 安全確認のために利用
-- 異常検知に利用されていた「移動しているはずなのに、長い間移動していない...」

- 友人同士での利用では,社会的意識を維持するために使われていた
-- 互いの生活パターンを知る「友人が朝早くから働いていることは知っていたが、こんなに早いとは知らなかった.悪いなと思うようになった」
- 特定行為の推測や何をしているかを気づくのに利用
-- 「車で来るって言っていたのに動いていない.渋滞にはまったか?」

- 会話のネタや互いが親しくなるのに有用かもしれない


□ When was the application used?
- 平均して日に5回アプリケーションを見ていた
- 友人間での利用の場合はそれ以上になる傾向にあった

- 暇な時に見ていた.気分転換.ゲーム代わり.娯楽として
- 特に使う理由がないので使わなかった
- 自分自身の記録を見ていた.過去の自分の行為を思い出すため


□ How were ambiguities/errors dealt with?
- 提供している情報があいまいなので、反論に対する言い訳ができると思っていた
- ニセの行動を提供するといった行為をする人はいなかった

- この種の情報は、相手のスケジュールを知っていなければ意味がない
- より詳細な情報が必要だという人もいた.移動状況の解釈を誤ることもあった
- 移動状態の検知ミス(精度)の問題


□ Privacy concerns
- 親しい間柄同士なら、プライバシー問題は起こりにくいと思いたいが、やはり起こる
- しかし、予想以上に少なかった.そういう間柄ならば情報共有したいと思うようだ

- 地図上に自分の位置が表示されるのはまさにBig Brotherだが、この程度の情報なら問題にしないな
- まったくの他人とは、移動状況とは言っても共有したくない
- なんとなく不安になるユーザもいたが、使ってもらったらあまり気にならないかもと言っていた
- 常時共有することに違和感を覚えるユーザもいた
- やはりより詳細な情報を欲しがるユーザはいた.正確な位置、住所名、移動方向
- 移動履歴を使いたいという人がいた


■ Discussion
- あいまいなプレゼンス情報でも有用
-- ユーザ間の関係によっては、こんなあいまいな情報でもさまざまな状況が推測可能
- 共有情報があいまいゆえにプライバシーの問題も回避できそう

- ユーザ間で互いの予定や行動パターンを知っていなければ、この種の情報は有用ではない.これがプライバシー上の懸念を低くしている
- 正確な位置を共有したいときには、ユーザが共有相手を指定して位置情報をpushすればよい.まさにユーザの意志による共有


■ Future Work
- 3つ.移動検知アルゴリズムの改善.他のプレゼンス情報の研究.プレゼンス情報の組み合わせの探求

- 他のプレゼンス情報として考えているもの: 再生中の音楽、携帯電話のアイドル画面、ライト(?)


■ Conclusion
- 親兄弟や親しい友達ならば移動情報から行動や居場所が推測できる
- 移動情報は、実際の通話にて居場所と活動状況を話す際に使われた
- 人に電話をする際に役に立つというような評価はされなかった
- 電池の持ちの改善は必須
- この手のアプリケーションは、日常的にユーザが便利であると感じるものではなく、長期間利用することによって、他人の行動パターンを学習し、電話してよい時間帯や見計らったり、より不定期な活動で人と会う場合などに使われた

- より親しい関係を築くため、そして家族や友人と頻繁に連絡をとるようになるためには、どのようなpresense情報が有用であり、そしてそれらをどのように提示するべきかを今後も模索する.

「移動情報」しか共有せず、それが親しい間柄の人間でしか意味をなさないという論拠からプライバシー問題の回避を狙いつつ、かつそういった個人の状況共有を目指している点は興味深い.が、やっぱり、それでも無制限の共有はプライバシー侵害と受け取られるのはそうだと思う.情報共有は、情報を提供する側の制御の基に行われるべきだというのは賛成できるが,でも、それでも問題になることがある.情報共有ができるという状況になってしまうと「情報共有できるのに、なんで情報共有しなかった/しないんだ!?」という事態になり、状況によっては相手に対して疑念を生んでしまうからだ.というわけで、こういったシステムは本当に難しい.慎重にならないといけない側面があるということを認識しておかなければいけないと思う.

Posted by z at June 2, 2007 03:25 AM