March 02, 2007

気になったセキュリティ関連記事 - 情報処理学会学会誌 Vol.48, No.1

情報処理学会学会誌 Vol.48, No.1にあった気になるセキュリティ関連の記事

- プライバシーを考慮した映像サーベイランス
- 人物を認識することの法的問題点 〜 監視カメラシステムの設置運用基準

特に後者の記事は勉強になります.漠然と監視カメラがどんどん設置されていく現状に違和感を覚えているのですが,それに対する法律面からの問題点を指摘しており,プライバシーを考慮した監視カメラシステムという提案の多くが,問題解決になっていないことを指摘しています.

2つめの記事に関して,メモとしていくつか内容を書き出してみる


- 人物認識システムが人権上問題とされる理由

* ある行動を人物認識システムで撮影することがわかっていたとすると,その行動をとることを萎縮させることにつながることがある.政治的デモ活動がその例に挙がっている.つまり,デモが人物認識システムで撮影されるとすると,「おまえ,あの政治的デモに参加していただろう!」と指摘され,自分に不利益がおよぶ恐れがあるからだ.このように民主主義社会において行動の自由を束縛しかねないため,人物認識システムが無差別に適用されることは問題がある.

* またこの問題の大事な点は,監視カメラに限らずRFID(広く言えば,ユビキタス技術全般)も同様の問題をはらんでいるという点である


- 監視カメラと肖像権

* 監視カメラは肖像権を侵害すると指摘されることが多い.が,しかし,問題の本質はこの点ではない.(もちろん,この問題がないと言っているのではなく,この問題も存在する.が,本質的な問題(もっと恐い点)は,これではないという意味である)

* 監視カメラ画像の恐さとは,肖像としての映像の価値ではなく,特定の人がその場所にいて,さらに何かをしていたという「記録」である.その人の要望や容姿はそれほど重要ではなく,特定の誰かである,もしくはそうであろうという特定さえできれば,監視カメラの映像としての目的は達成されるのだ.

* つまり監視カメラは,行動の監視が目的である(そりゃそうでよね).これを逆に考えると,監視カメラは「行動の自由」を脅かす技術なのである.つまり監視カメラは,個々人の行動の追跡記録を可能にしてしまい,結果として行動の自由というプライバシーを侵害することになるのである.これはRFIDも同じである.というか,行動の追跡記録が可能になってしまうという点ではRFIDの方がすでに多数の指摘があるように思える.


- 監視カメラのプライバシー保護技術は法的問題を解決するか?

* しない.問題は肖像権ではなく,行動追跡を不可能にすることであり,これは監視カメラの設置目的と真っ向から矛盾する

* 画像にモザイクをかけたりという技術があるが,これも大抵は可逆であることが多い.というかそうでないと監視カメラの意味がない.また,暗号化という手法もあるが,これも誰かが復号できるわけだから同じである.

* 非可逆な画像処理が施されていても,プライバシー侵害となる可能性もある

* 画像処理によって肖像が消されたとしても,個人を特定し,その行動を追跡したり,記録したりすることが可能である限りは,プライバシー侵害の問題を解決したとは言えない

* 設置運用基準として必要と考えられるのは,目的の合理性,手段の正当性,法的基準の適用場面.

また恐いのは,こういう技術がきちんと議論されずに普及し,誰も文句を言わなくなった頃に「当初の目的とはまったく別の目的」でも使われるようになる(目的外利用)ことだ.当初は防犯目的だったのに,そのうちそれとは別の目的でも監視カメラの画像が使われるようになったとしたら... それを考えると,うすら恐ろしいことである

この記事,個人的には非常に勉強になりました.

しかし,この記事を読むとその前の記事である「プライバシーを考慮した映像サーベイランス」の研究が意味のないものに見えてくる.そんなことはないか...

なおこの手の研究は,User Interface(?)系の分野でもいくつか論文を知っているので,ここにリンクを残しておく

* プライバシーを考慮した監視カメラ映像配信システム - インタラクション2004
* SpaceTracer:ネットワークカメラ画像の合成による空間型コミュニケーションシステムの提案 - インタラクション2006

Posted by z at March 2, 2007 02:33 AM